東京高等裁判所 平成4年(行ケ)200号 判決
フランス国
75008 パリ リュー ダーンジュ 42番
原告
クルーゾーロワール
同代表者
マシューフェラーリ
同訴訟代理人弁護士
中村稔
同
熊倉禎男
同
折田忠仁
同
窪田英一郎
同弁理士
小川信夫
同
川俣静子
同訴訟復代理人弁理士
宮川佳三
東京都千代田区霞が関3丁目4番3号
被告
特許庁長官
高島章
同指定代理人
小池勇三
同
入交孝雄
同
市川信郷
同
吉野日出夫
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告のための附加期間を90日と定める。
事実
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
「特許庁が平成3年審判第13078号事件について平成4年5月7日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決
2 被告
主文1、2項と同旨の判決
第2 請求の原因
1 特許庁における手続の経緯
原告は、フランス国における1982年4月15日及び1983年3月23日の各出願に基づく優先権を主張して、発明の名称を「中空鋼インゴットの製造方法及び装置」とする発明(平成3年1月17日付け手続補正書による補正後の願書添付の明細書の特許請求の範囲(6)項記載の発明を以下「本願発明」という。)について、昭和58年4月15日、特許出願をした(昭和58年特許願第66857号)ところ、平成3年3月2日、拒絶査定を受けたので、同年7月1日、審判を請求したところ、特許庁はこれを平成3年審判第13078号事件として審理した結果、平成4年5月7日、上記請求は成り立たない、とする審決をし、この審決書謄本を、平成4年6月10日、原告に送達した。
2 特許請求の範囲(6)項の記載の発明
「少なくとも1つの底部注ぎ口を有する下注ぎ鋳造用台上にインゴット鋳型と、前記インゴット鋳型の中央部分に設けられた垂直円筒状中子と、冷却流体流により中子を冷却する装置を有する中空鋼インゴットを製造するための装置であって、
中子は完全に金属製であって、4~20mm好ましくは5~12mmの厚さを有し下方部分が鋳造用台上に設置された金属座部によって閉じられた消費型外部薄板鋼製円筒スリーブと、前記スリーブの中央部分に挿入され前記スリーブとともに均一な間隔を作り支柱を介して金属製の座部上に載置され互いの間を自由な通路が形成されるようになっている再使用可能な中空金属製マンドレルを含む前記装置」(別紙図面1参照)
3 審決の理由の要点
(1) 本願発明の要旨は前項記載のとおりである。
(2) 昭和55年特許出願公開第45552号公報(以下「引用例」という。)3頁左上欄6行ないし左下欄10行(引用例の上記箇所に記載の発明を「引用発明」という。別紙図面2参照)には、以下の記載がある。
〈1〉 第1図は従来の中空鋼塊製造用鋳型装置を示す縦断面図である。すなわち、従来の鋳型装置は、定盤1上に据えつけられた鋳鉄鋳型2と、鋳鉄鋳型2の中央部に配置された中子3と、中子3の更に内側に設けられた中子冷却用ガス流路4から構成されている。これらの中子3及び中子冷却用ガス流路4は、溶鋼中に浮き上がらないように鋳型2の上端に支持金具5によって固定されている。中子3は、鋳鉄鋳型2の内側中央部に配置された第1鉄製パイプ6と、第1鉄製パイプ6の内側にこれと同心に設けられた第2鉄製パイプ7と、第1、第2鉄製パイプ6、7の間に充填された鋳物砂等の耐火部材8とによって構成され、第1鉄製パイプ6の外側は鋳型2に注入される溶鋼9と直接接触する。
〈2〉 中子3の内側に設けられる中子冷却用ガス流路4は、第2鉄製パイプ7の更に内側にこれと同心に設けられた第3鉄製パイプ10を利用して形成されている。すなわち第3鉄製パイプ10の下端と定盤1との間には間隙11が設けられており、中子冷却用ガス12は、第3鉄製パイプ10の上方より導入され、第3鉄製パイプ10中を下降し、定盤1との間隙11を通じて第2、第3鉄製パイプ6及び7の中間を上昇して上方に排出され、全体として中子冷却用ガス流路4を形成し、第2鉄製パイプ6の内側を冷却する。冷却用ガスとしては通常、窒素、アルゴン等の不活性ガスが使用されている。この冷却によって中子3を介して鋳型2に注入された溶鋼9を冷却するので、形成される中空鋼塊の最終凝固位置は、鋼塊肉厚の中心に近づく。
〈3〉 なお、中空鋼塊製造においては上注ぎ法によっても不可能ではないが、下注ぎ法による方が鋳込中の湯面の動揺が少なく、中子3を破壊する危険が少ないため、定盤1中に環状の溶鋼9の上り湯口14が鋳型2と第1鉄製パイプ6の間に開口している。
〈4〉 かかる構成の従来の中空鋼塊製造用鋳型装置において問題となるのは、耐火部材8及び第2鉄製パイプ7の厚さである。第1鉄製パイプ6は、溶鋼9によってその表面が溶解し、残部は生成される中空鋼塊と一体となるので厚くても差し支えない。しかし耐火部材8及び第2鉄製パイプ7の厚さはガス冷却による冷却効果の点より薄い方がよいが、一方、溶鋼9の静圧に耐えるだけの機械的強度を必要とする(第1図、第2図参照)。
(3) 次に本願発明と引用発明を比較すると、以下のとおりである。
両者は、中空鋼塊、即ち、中空鋼インゴットを下注ぎ法で鋳造するための装置であって、引用発明の「湯口」、「定盤」、「鋳鉄鋳型」、「中子冷却用ガス流路」及び「第3鉄製パイプ」が、それぞれ本願発明の「底部注ぎ口」、「鋳造用台」、「インゴット鋳型」、「冷却流体流により中子を冷却する装置」及び「マンドレル」に相当することは、それらの構造及び機能からみて明らかである。また、引用発明の「中子」は、「垂直円筒状中子」に相当し、さらに、引用発明は、本願発明と同様に、第3鉄製パイプ、即ちマンドレルが、中子の中央部分に挿入されて中子との間に均一な間隔を成形するとともに定盤との間にも通路を形成しているものである。
したがって、本願発明と引用発明は、「少なくとも1つの底部注ぎ口を有する下注ぎ鋳造用台上にインゴット鋳型と、前記インゴット鋳型の中央部分に設けられた垂直円筒状中子と、冷却流体流により中子を冷却する装置を有する中空鋼インゴットを製造するための装置であって、前記中子は下方部分が鋳造台上に設置されて閉じられた円筒状中子であり、前記中子の中央部分に挿入され前記中子とともに均一な間隔を作り互いの間を自由な通路が形成されるようになっている中空金属製マンドレルを含む前記装置」である点で一致する。
これに対し、本願発明では、中子は完全に金属製であって、4~20mm好ましくは5~12mmの厚さを有し下方部分が鋳造用台上に設置された金属座部によって閉じられた消費型外部薄板鋼製円筒スリーブであるのに対し、引用例には前記スリーブについての記載がない点(相違点a)、本願発明は、マンドレルが支柱を介して金属製の座部上に設置され再使用可能であるのに対して、引用例には、その旨の記載がない点(相違点b)でそれぞれ相違するものと認められる。
(4) 相違点aについてみると、引用例には、中子について溶鋼と接触する部分が金属であり、溶鋼によって金属の表面が溶解し、残部は生成される中空鋼塊と一体となるので厚くてもよいこと、及び中子は、溶鋼の静圧に耐えるだけの機械的強度を必要とすることが記載されており(引用例の前記〈4〉参照)、また、金属製の中子自体は周知のものであるから、引用発明の中子を金属製としてもよいことは当業者が容易に想到し得たものと認められる。そして、金属の表面は溶解するから、中子は消費型となり、また、中子の厚みは、鋳型の寸法、注入される溶鋼の量により定まる静圧に耐えるだけの機械的強度を考慮して決定できる設計事項にすぎないものと認められる。
相違点bについてみると、引用発明の第3鉄製パイプ(即ちマンドレル)は、中子及び定盤のそれぞれとの間に全体として中子冷却用ガス流路を形成するように設置されればよい(公報3頁右上欄1~11行参照)から、その設置手段は単なる設計事項にすぎないものと認められる。また、第3鉄製パイプは、本願発明のマンドレルと同様に通常の状態では溶鋼に接するものではなく、また、冷却もされているから、十分に保護されており、消耗することが少ないので、再使用可能であることは明らかである。
(5) よって、本願発明は、引用例に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものと認められるから、特許法29条2項により、他の発明について審理するまでもなく特許を受けることができない。
3 審決の取消事由
審決の認定判断のうち、審決の理由の要点(1)のうち、「マンドレル」に関する認定は争い、その余は認める。同(2)は認める。同(3)のうち、引用発明の「中子冷却用ガス流路」、「第3鉄製パイプ」がそれぞれ本願発明の「冷却流体流により中子を冷却する装置」、「マンドレル」に相当するとした点、及び、両装置が中空金属製マンドレルを備えている点で一致するとの認定部分は争うが、その余は認める。同(4)、(5)は争う。審決は、本願発明の「マンドレル」の技術的意義の把握を誤った結果、一致点を誤認して相違点を看過し、かつ、相違点aについての判断を誤り、さらに本願発明の顕著な作用効果を看過したものであるから、違法であり、取消しを免れない。
(1) 一致点の誤認(取消事由1)
審決は、本願発明のマンドレルが引用発明の第3鉄製パイプに構造及び機能からみて相当するとして、引用発明においても、マンドレルを備える点において、本願発明と一致するとしたが、この一致点の認定は以下に詳述するように、誤っている。
マンドレルとは、中空成形品の内面を成形する芯型を指す言葉であり、本来、成形品の中空に応じた一定の断面積を有する中実のものであり、場合により、中空とすることはあっても、あくまで中実であることが発想の基点であることから、パイプと同じ意味で用いられることはない。本願発明の特許請求の範囲(6)項において、マンドレルなる用語を使用したのは、一方で一定の大きな厚みを有するマンドレルとしての構造を有し、厚みのある中空体とすることによって、冷却剤をその中心で通過させ、熱を吸収する機能を有するからに他ならない。もし、冷却剤の単なる流路を形成するにすぎないのであれば、それはパイプであり、マンドレルと表現する必要はない。
仮に、中空マンドレルという言葉から当然に一定の大きな厚みを有するものとしての意味を有しないものとしたならば、パイプではなく、マンドレルとの用語を使用した意味は曖昧なものとならざるを得ないから、発明の詳細な説明の記載を参酌してその意義を確定することにならざるを得ない。そこで、本願明細書をみると、発明の詳細な説明中には「中空マンドレルは外径980mmおよび内径360mmを有している。」(甲第2号証5頁左上欄18、19行)と記載されており、この記載によれば、本願発明の実施例におけるマンドレルの厚さは31cmであることが明らかである。このような本願明細書中の記載を参酌すれば、本願発明のマンドレルが当然に一定の大きな厚みを有するものであることは明らかである。
これに対し、引用発明における第3鉄製パイプは内部半径が28cm(甲第4号証6頁右上欄19行)又は25cm(同頁左下7行)とされているものであるから、本願発明のマンドレルとは、その構造が異なることは明らかである。
次に両者の機能を検討すると、本願発明のマンドレルは、前記のとおり、一定の大きな厚みを有するものであるから、熱吸収性が高く、溶鋼によって熱されたスリーブの熱を吸収する。そして、熱を吸収したマンドレルは、その上部から中空部へと導入され、さらにスリーブとマンドレル間の間隙を上昇する圧縮空気等の流体流によって冷却される。以上の機能は、本願明細書の発明の詳細な説明中の「該中子を横切る熱の移動は複雑である。一つには円筒状スリーブが灼熱されかつ冷却マンドレル上に放熱し、他方ではマンドレルおよびスリーブを熱する熱量が冷却剤流により、熱伝導および対流に基き排出される。」(甲第2号証4頁右上欄4行ないし8行)との記載部分から明らかである。
これに対し、引用発明の第3鉄製パイプは、第1鉄製パイプないし第2鉄製パイプを冷却するための冷気用流路を形成する手段としてのみ設けられたものであり、スリーブの熱を大量に吸収することによって、中子の冷却効率を高くするという作用を果たさない。
さらに、本願発明のマンドレルと第3鉄製パイプは再使用の可否の観点からみても異なる。本願発明のマンドレルは、「内、外両面において実質的から良好に冷却されて」おり、「数回に旦り再使用し得る」(甲第2号証4頁右下欄2行ないし4行)のに対して、引用発明の第3鉄製パイプが再使用可能であるか否かについては、引用例に記載はなく、審決が「十分に保護されており、消耗することが少ない」と認定した根拠はない。
以上述べたように、本願発明のマンドレルと引用発明の第3鉄製パイプは、その構造、機能において異なることは明らかであるから、両者が相当するとし、その点において一致するとした審決の認定は誤っている。
(2) 相違点aについての判断の誤り(取消事由2)
まず、審決は金属製の中子は周知であるとして乙第1ないし同第3号証を援用するが、これらの乙号証には、金属製の中子の開示はない。
次に、審決は、本願発明のスリーブと引用発明の第1鉄製パイプと第2鉄製パイプの相違を看過している点において誤っている。引用発明では、「中子3は、・・・第1鉄製パイプ6と、第1鉄製パイプ6の内側にこれと同心に設けられた第2鉄製パイプ7と、第1、第2鉄製パイプ6、7の間に充填された鋳物砂等の耐火部材8とによって構成され(る)」(甲第4号証3頁左上欄14行ないし18行)とされているように、耐火部材を含む点において、本願発明のスリーブとは異なるものである。この点については、本願明細書中でも、「円筒状耐火性中子は気体流による熱の急速排出を妨害し、これは不利な点である」(甲第2号証3頁左上欄15、16行)との記載からも明らかなように、本願発明は引用発明における中子の存在を承知しながら、その不都合な点を解決するために金属製の中子を採用したものである。引用発明の円筒状耐火性中子では、溶鋼からの熱が急速に中心部に伝わることを耐火部材等を用いて防止しているのに対し、本願発明においては、溶鋼からのスリーブの熱を積極的、かつ急速に中心部のマンドレルに吸収させようとする発想を採用しているものであり、その着眼点は全く異なるものである。このように、引用発明における中子は本願発明の金属製のスリーブとは全く異なるものであって、前者の中子を金属製とすることは当業者の常識に反することである。
さらに、審決は、スリーブの厚みをどの程度とするかは設計事項にすぎない、とするが誤りである。すなわち、スリーブの厚みは、冷却効率、機械的強度、ひび割れの防止等を考慮して決定される中空鋼インゴットの製造装置にとって最も重要な点である。本願発明は、スリーブを薄板鋼をもって構成したことにより、熱伝導性を向上させ、マンドレルとの組み合わせにより溶鋼を適当な温度で冷却することを可能としたものである。また、本願発明のスリーブは、それ単体として意味があるものではなく、冷却機能を有する中空マンドレルとの組み合わせに意味を有するものである。仮に、引用発明の中子を金属製とし、さらにその厚みを本願発明と同様4~20mmとしても、これが直ちに実用性を有するものではない。本願発明は、中央にマンドレルを有することにより、スリーブの熱がマンドレル及び流体流の双方によって冷却され、スリーブを4~20mmとすることができたものであり、引用発明において中子の厚さを4~20mmとした場合は、中子は流体流のみによって冷却されるため、十分な冷却がなされず、中子は溶解ないし破壊されてしまうことは明白である。
また、本願発明は、特に本願発明方法を実施するために考案された装置であるところ、上記の方法は、特定の鋼の温度、鋼の鋳型への供給速度、鋼の鋳型内の上昇速度等を採用し、さらに特定の構造の本願発明を使用することにより、製造されるインゴットの固化の終了時の位置をインゴット壁の中央に位置するように制御し、インゴット中の不純物の偏析の位置を制御するという技術的課題を達成するものである。すなわち、本願発明のスリーブの4~20mmという厚さは、上記のような課題が達成されるように特に選択された範囲であるから、上記の課題及び本願発明の特定の構成、スリーブの厚さについて何ら開示するものではない引用例から、到底容易に想到し得たものではなく、これを設計事項とすることはでず、審決の相違点aについての判断は誤っている。
(3) 顕著な作用効果の看過(取消事由3)
本願発明は、特許請求の範囲(6)項記載の構成を採用することによって、冷却効率を高め、スリーブ表面の温度の調節を可能とし、インゴットの急速な固化の発生を防ぎながら、その内部表面から偏析を生ずる固化の終了時の領域を排除するという当業者の予想を超えた顕著な作用効果を生ぜしめたものであるから、かかる顕著な作用効果を看過した審決の判断は誤りである。
第3 請求の原因に対する認否及び被告の主張
請求の原因1ないし3は認めるが、同4は争う。審決の認定判断は正当である。
1 取消事由1について
本願発明の中空マンドレルは、軟鋼製であって、スリーブと距離を隔てられて設置され、その間隙に冷却用空気が通る流路を形成し、マンドレルの内側及び外側の冷却剤流によって熱を吸収し、中子のスリーブを冷却するものである。これに対し、引用発明の第3鉄製パイプも第2鉄製パイプの内側に同心円に設けられ、その間隙を冷却流路としているものであるから、両者は同様の機能及び構造を有していることは明らかである。
原告は、本願発明の実施例中の中空マンドレルの金属の厚みと引用発明の第3鉄製パイプのそれとを比較して、両者の相違を主張するが、本願発明のマンドレルの金属の厚みは特許請求の範囲の記載においては何ら限定されていないところであるし、マンドレルには、中実のものや中空のものがあり、中空のものでは厚みの大きいものも小さいものもあり多種多様であるから、マンドレルのみではその形状及び厚みを特定していることにはならない。したがって、原告が主張する「当然に一定以上の厚みを有する芯型」を意味するものではない。
原告は、本願発明のマンドレルと引用発明の第3鉄製パイプでは機能が異なると主張するが、失当である。本願明細書には、中子を横切る熱の移動は「一つには円筒状スリーブが灼熱されかつ冷却マンドレル上に放熱し、他方ではマンドレルおよびスリーブを熱する熱量が冷却剤流により、熱伝導および対流に基き排出される」(甲第2号証4頁右上欄5行ないし8行)と記載されているが、引用発明における中子を横切る熱の移動は、第1、第2鉄製パイプ及び耐火部材から構成されるスリーブが溶鋼により灼熱されると、その熱の一部は冷却用ガス流路を経て第3鉄製パイプへ伝わって放熱され、さらに、第3鉄製パイプとスリーブの熱は冷却用ガスにより冷却され熱伝導及び対流により排出されることは中子の構造から明らかであるので、本願発明の熱の移動と異なるところはない。
したがって、本願発明のマンドレルと引用発明の第3鉄製パイプが一致するとした審決の認定に誤りはない。
2 取消事由2について
スリーブの厚みは、溶鋼によりスリーブが破壊しないように必要とされる機械的強度、冷却効果などを考慮して当然に決めなければならない設計事項であり、その際、冷却効果の点からすると薄い方がよいことは明らかであり、また、鋳込む量にもよるが、厚みを単純に70mmにする必要のないことも明らかであるから(乙第7ないし同第9号証参照)、当業者であれば何の根拠もなしにスリーブの厚みを単純に耐火物のそれと同じにして甚だ不都合な結果を生ずるようなことをする筈がない。また、金属製の中子が周知であるし、薄板鋼の厚みが通常4~20mmであることからすると、本願発明のスリーブの構成を当業者が適宜決定できるとした相違点aについての審決の判断に誤りはない。
3 取消事由3について
冷却効率の向上については、引用例に、「耐火部材8および第2鉄製パイプ7の厚さはガス冷却による冷却効果の点より薄い方がよいが、一方、溶鋼9の静圧に耐えるだけの機械的強度を必要とする」との記載(甲第4号証3頁左下欄7行ないし10行)から、当業者が予測し得たところであるし、また、偏析を排除することに関しては、引用発明においても冷却剤流を調節して第1鉄製パイプ表面の温度調節を行うことによって溶鋼の冷却速度の調節が可能であるから、偏析が防止できることは明らかであるので、これらの点に関する本願発明の奏する作用効果は格別のものとはいえず、審決に本願発明の顕著な作用効果を看過した違法はない。
第4 証拠
証拠関係は書証目録記載のとおりである。
理由
1 請求の原因1ないし3は当事者間に争いがない。
2 本願発明の概要
成立に争いのない甲第2号証(本願発明の昭和58年特許出願公開第202952号公報)及び同第3号証(平成3年1月17日付け手続補正書)によれば、本願発明の概要は、以下のとおりである。
本願発明は、中空部材の鍛造のための素材となる中空インゴットを鋳造する装置に関するものである(上記公報2頁左下欄2行ないし5行)。中空鍛造部材を製造する従来の方法は、中実のインゴットを分塊圧延、圧漬、穴あけ、マンドレル上での引き伸ばし、圧搾の一連の連続的操作によっている。これに対し、中空インゴット法は、〈1〉分塊圧延、圧漬及び穿孔が無用となり、鍛造操作が簡略化される、〈2〉歩留りが良い、〈3〉炭素及び不純物の偏析率が低下する、〈4〉インゴットの中空中心による熱の排出が十分であれば、炭素及び不純物の残留偏析が最終製品の1/2厚さ近傍に局在する結果、製品の内部表面は偏析を受けない、等の数多くの利点を有するが、同方法に内在する以下のような障害のため、中空インゴット法は殆ど発展していなかった。すなわち、中空インゴット法では、鋳塊鋳型内に中子を設ける必要があるが、中子の良好な持続性を達成することの困難性、中子を型から取り出すことの困難性、並びに、インゴットの鋳造中及び固化中における中子に伝えられた熱の排出の困難性等の課題があったためである(同2頁左下欄6行ないし3頁左上欄7行)。本願発明は、インゴットの固化中における中子による熱の徹底的排気を保証すると同時に中子の良好な持続性の維持及び中子を型から容易に取り出すことの各困難性をも合わせて解決することを課題として(同3頁左上欄下から4行ないし4頁左上欄下から6行)、特許請求の範囲(6)項記載の構成(上記補正書5頁2行ないし16行)を採択したものであり、この結果、本願発明は、効率的な冷却並びに熱の排出速度を調節することによるインゴット固化の各瞬間における最適な冷却の実現及び偏析位置の調節、マンドレルの再利用が可能であり、かつ、取外しが容易である、等の作用効果を奏したものである(上記公報4頁左上欄下から5行ないし右下欄7行)。
3 取消事由について
(1) 取消事由1
原告は、本願発明のマンドレルと引用発明の第3鉄製パイプは、構造(厚み)及び機能において異なるのに、両者が一致するとした審決の認定は誤りであると非難するので、以下、この点について検討する。
〈1〉 まず、両者の構造(厚み)の点から検討する。
前掲甲第3号証によれば、本願明細書の特許請求の範囲の記載中には、本願発明のマンドレルの厚みを規定した記載を見いだすことができない。
ところで、原告は、マンドレルである以上、パイプとは区別された一定以上の厚みを有すると主張するので、以下、この点について検討すると、本件全証拠を検討しても、マンドレルであれば、当然に一定限度以上の厚みを有するものであると認めるに足りる証拠はない。かえって、いずれも成立に争いのない乙第4号証(昭和52年実用新案出願公告第42125号公報)及び同第5号証(昭和54年実用新案出願公告第19317号公報)によれば、鋼管製造の分野において、金属製の中空円筒をマンドレルと称している事実が認められるところ、前掲各乙号証を精査しても、その厚みについて言及した記載を見いだすことはできない。しかしながら、上記各マンドレルの構造及び機能からみて、これらがいずれもある程度以上の厚みを有していることはもとより当然のことであることからすると、その厚みは必要とする強度等を考慮しながら適宜決すれば足りるものと解されているとみるのが相当であって、マンドレルであるとの一事から当然に一定限度以上の厚みを有するものとまで認めることは困難というべきである。したがって、この点に関する原告主張は採用できない。
そこで、進んで、本願明細書の発明の詳細な説明の欄の記載を参酌して検討すると、前掲甲第2号証によれば、同欄の記載を精査しても、後記認定の実施例に関する記載部分以外においては、本願発明のマンドレルの厚みに言及した記載を見いだすことはできず、唯一の実施例として示されたものにおいて、「中空マンドレル8は外径980mmおよび内径360mmを有している。」(5頁左上欄下から3、2行)との記載が認められるのみであり、この記載によれば、本願発明の上記唯一の実施例においては、マンドレルの厚みは310mmと認めることができる。しかしながら、前掲甲号証によれば、前記発明の詳細な説明中に、実施例に関し、「本発明を一層よく理解するために、本発明による方法並びに装置の実施態様を非限定的実施例として以下記載する。」(4頁右下欄下から6行ないし4行)との記載が存することが認められるところ、この記載部分からも明らかなように、前記実施例の上記厚みをもって本願発明のマンドレルの厚みを限定した趣旨であるとまで解することはできない。
以上によれば、本願明細書を精査しても、本願発明のマンドレルの厚みについて、これを一定限度以上とする旨の格別の限定があるものとまで認めることはできないというべきである。
これに対し、引用発明についてみると、成立に争いのない甲第4号証によれば、引用例には、第3鉄製パイプの内部半径を25cm(5頁右下欄末行)又は28cm(6頁右上欄下から2行)とする旨の記載はあるが、直接その厚みに言及した記載はない。しかしながら、第3鉄製パイプは鉄製であり、また、後記〈2〉に検討するような機能を有するものである以上、それがある程度以上の厚みを有することは当然のことというべきである。
〈2〉 次に両者の機能についてみる。
本願発明のマンドレルの機能から検討すると、前掲甲第2号証によれば、本願明細書には、「更に該鋳塊鋳型の中心部に完全に金属製の垂直円筒状中子の設置を含み、その特徴は規則的な間隔をもつて相互に隔置されている外部の薄板状円筒スリーブと内部の中空マンドレルとを含む前記中子が中空マンドレルの軸に沿つて下降しかつ前記規則的間隔内におけるスリーブに沿つて再び上昇するガス、または蒸気もしくはガスと蒸気との混合物により構成される冷却剤流よって永続的に貫流されており、」(3頁右上欄5行ないし13行)、「前記スリーブの中心部に導入された再使用可能な中空金属マンドレル(ただし、該マンドレルは該スリーブと共に規則的間隔で設けられ、該スリーブとの間に自由通路をもたらす支柱の介在により前記金属座部上に置かれている)により構成され、かつ前記中子には該マンドレルの中心部を下降し前記支柱間を通り、しかも前記マンドレルと円筒状スリーブとの間にある間隙内を再び上昇するガスまたは蒸気の冷却剤流が通されていることである。」(3頁右下欄下から2行ないし4頁左上欄8行)、「その上、該中子を横切る熱の移動は複雑である。一つには円筒状スリーブが灼熱されかつ冷却マンドレル上に放熱し、他方ではマンドレルおよびスリーブを熱する熱量が冷却剤流により、熱伝導および対流に基づき排出される。・・・即ち、該マンドレルはその中ぐりによつて効果的に冷却され、該中ぐりには該中子内の入口から冷却剤流が通されている。」(4頁右上欄4行ないし12行)との各記載が認められ、これらの記載によれば、本願発明のマンドレルは、マンドレルの中空部から流れ込み、マンドレルと円筒状スリーブの間に形成される間隙内を通って外部に通ずる冷却剤流の冷却流路を形成する機能を有するものであることは明らかである。
これに対し、引用発明についてみると、前掲甲第4号証によれば、引用例には、「第3鉄製パイプ10の下端と定盤1との間には間隙11が設けられており、中子冷却用ガス12は、第3鉄製パイプ10の上方より導入され、第3鉄製パイプ10中を下降し、定盤1との間隙11を通じて第2、第3鉄製パイプ6および7の中間を上昇して上方に排出され全体として中子冷却用ガス流路4を形成し第2鉄製パイプ6の内側を冷却する。」(3頁右上欄4行ないし11行)との記載が認められるから、引用発明の第3鉄製パイプは、第3鉄製パイプの中空部から流れ込み、第3鉄製パイプと第2鉄製パイプの間に形成される間隙内を通って外部に通ずる中子冷却用ガスの冷却流路を形成する機能を有することは明らかである。
〈3〉 そこで、以上に認定した本願発明のマンドレルと引用発明の第3鉄製パイプの構造(厚み)及び機能を対比すると、まず、厚みについては、引用発明の第3鉄製パイプは鉄製であり、高温下における冷却流路を形成するものである以上、当然、ある程度以上の厚みを有するものであることは前記のとおり容易に推認可能である。これに対し、本願発明のマンドレルの厚みについては、前記認定のように格別の限定はないといわざるを得ない以上、両者を厚みにおいて、明確に区別することは困難であるといわざるを得ないというべきである。次に、機能の面からみると、共に、冷却用ガスの冷却流路を形成する点において差異がないことは前項に説示したところから疑問の余地がないところである。もっとも、この点ついて原告は、本願発明のマンドレルは、「冷却マンドレル」である点において第3鉄製パイプと機能を異にすると主張するところ、本願明細書には「一つには円筒状スリーブが灼熱されかつ冷却マンドレル上に放熱し、」との記載があることは前項に認定したとおりであるが、前掲甲第2号証を精査しても、本願明細書には、上記の放熱とマンドレルの厚みとの関係についての格別の記載はないし、また、引用発明においても、第2鉄製パイプから伝わる熱が第3鉄製パイプに放熱されることはその構成からみて容易に推認可能であることからすると、この点においても両者の機能に格別の差異があるとすることはできない。さらに原告は、引用発明の第3鉄製パイプは再使用可能といえるか疑問があるとするが、後記(2)において説示するように、引用発明の第3鉄製パイプは、第1鉄製パイプ、耐火部材及び第2鉄製パイプによって溶鋼から守られており、溶鋼に直接接するものではないことからみて、再使用可能と推認できるから、この点に関する原告主張も採用できない。
以上の次第であるから、本願発明のマンドレルと引用発明の第3鉄製パイプが一致するとした審決の認定に誤りはないというべきであり、取消事由1は理由がない。
(2) 取消事由2
原告は、金属製の中子は周知ではないと主張するので、まず、この点を検討する。
成立に争いのない乙第1号証(昭和51年特許出願公告第39618号公報)には、鋼塊の断面中心部に金属管とこの金属管に密着防止剤を介して挿入した芯金を鋳込み、この鋼塊を所定の断面形状の棒鋼に成形加工後、芯金を抜き取ることを特徴とする中空鋼の製造法(特許請求の範囲)に関する発明が、同乙第2号証(昭和48年特許出願公開第5629号公報)には、筒型鋳塊の製造法に関して、金属製の中子(2頁右上欄14行、15行、第1図、第2図参照)が、同乙第3号証(昭和48年特許出願公開第26625号公報)には、中空鋼塊の製造装置に関して、金属製の中子(1頁左下欄14行ないし16行)が、それぞれ記載されていることが認められ、これらの刊行物の発行時期及びその各記載内容に照らすと、本優先権主張日前において、中空鋼の製造法において金属製の中子を使用すること自体は、既に周知の技術的事項であったものといって差し支えがないというべきである。なお、この点については、前掲甲第4号証によれば、引用例においても、その従来技術に関して、金属製の中子について言及している(1頁右下欄末行)ところでもある。
してみると、中空鋼の製造法において、金属製の中子を採用したこと自体をもって格別想到困難であったとすることはできないから、この点に関する原告の主張は採用できないというべきである。
次に、本願発明において円筒スリーブの厚みの数値を限定した点について検討するに、審決は、この点について、「鋳型の寸法、注入される溶鋼の量により定まる静圧に耐えるだけの機械的強度を考慮して決定できる設計事項にすぎない」としたものであることは当事者間に争いのない前記審決の理由の要点に照らして明らかなところであるので、以下、上記判断の当否について検討する。
ところで、審決が引用した引用例記載の事項は、引用例3頁左上欄6行ないし左下欄11行に記載された従来の技術であって、引用例に係る出願発明ではないが、前掲甲第4号証によれば、同出願発明は上記従来技術において、冷却効果を大とすると同時に中子3の溶鋼9の静圧に対する機械的強度を増加するため「前記第2鉄製パイプの内側と前記第3鉄製パイプの外側とを鉄パイプの半径方向に連結支持する複数個の補強リブを有することを特徴とする中空鋼塊製造装置」(特許請求の範囲(1))という構成を採用したものと認められるところ、前掲甲第4号証によれば、引用例に係る出願発明が上記中子について前記のような構成を採用した理由について「かかる構成の従来の中空鋼塊製造用鋳型装置において問題となるのは、耐火部材8および第2鉄製パイプ7の厚さである。第1鉄製パイプ6は溶鋼9によつてその表面が溶解し、残部は生成される中空鋼塊と一体となるので厚くても差支えがない。しかし、耐火部材8および第2鉄製パイプ7の厚さはガス冷却による冷却効果の点より薄い方がよいが、一方、溶鋼9の静圧に耐えるだけの機械的強度を必要とする。従来の中空鋼塊製造用鋳型装置においては、単に第2鉄製パイプ7を設けるだけで、冷却効果に主眼を置く関係上、溶鋼9の静圧によつて中子3を破壊し溶鋼9の漏出を起こす等の危険があつた。本発明は冷却効果を大とすると同時に中子3の溶鋼9の静圧に対する機械的強度を増加する構成としたものである。」(3頁右下欄2行ないし16行)、「先ず第2鉄製パイプ7の厚さについて記載する。第2鉄製パイプ7の厚さは、経済的にも、また冷却効率を上げるためにも薄い方が望ましいが、鋳型2への高温溶鋼9の注入により加熱されて温度が上昇する関係上、過度に薄い場合には溶鋼9の静圧によつて座屈もしくは圧縮破壊を受ける危険があるので先ず第2鉄製パイプ7の温度上昇の限度を明らかにする必要がある。第2鉄製パイプ9(「7」の誤記である。)の温度は、中子3の鋳物砂等の耐火部材8の厚さが薄いほど、また冷却用ガス12の流速が小さくなるほど上昇する。第4図は鋳物砂8の厚さおよびガス流速が、それぞれ下限と考えられる3cm、および1m/secと仮定して肉厚1mの中空鋼塊製造時の第2鉄製パイプ7の温度変化を鋳込からの時間経過に従つて計算した結果である。すなわち、その上限温度は780℃であり、従つて強度計算に用いる材料の機械的性質としてその上限温度を800℃と見れば十分であることが判明した。一方、溶鋼静圧による第2鉄製パイプ7の破壊は座屈と圧縮の2種類の原因によると考えられるので、この両者に対して十分の強度を確保しなければならない。」(3頁右下欄19行ないし3頁左下欄末行)との各記載が認められ、また、その実施例における第2鉄製パイプの厚さは6mmである(5頁右下欄19行)ことが認められる。
以上によれば、第2鉄製パイプが溶鋼の静圧に耐え得る機械的な強度を必要とすることは明らかであるから、かかる観点を考慮して第2鉄製パイプの強度を決定しなければならないこと自体は当然の設計事項であるといって差し支えがないと考えられ、この点に関する審決の判断に誤りはないというべきである。
また、第2鉄製パイプに用いる材料の機械的性質については、第2鉄製パイプが曝される温度条件を考慮する必要があることは前記認定の引用例の記載から明らかであるところ、引用発明においては、第1鉄製パイプ及び耐火部材を必須の構成要件としている点において、金属製の円筒スリーブのみからなる本願発明と上記の温度条件を異にすることは明らかといわなければならない。しかしながら、上記のような温度条件については、中子の構造上、極めて高温に達する溶鋼の熱的影響を避け難く、ひいてはこの温度影響が溶鋼の冷却にも関係するものであることは当業者であるならば極めて容易に知り得た事柄であることを考慮すると、中子の設計上、いわば当然の考慮要素というべき事項である。
したがって、以上のような諸点を考慮に入れてスリーブの厚みを決することもまた設計事項といわざるを得ず、前掲甲第2号証を精査してみても、本願明細書には、本願発明の採択したスリーブの厚みが当業者の想到し得ないようなものであることを認めるに足りる根拠を見いだすことはできない。
以上によれば、スリーブの厚みを本願発明が採択した程度とすることは容易に想到し得た設計事項であるとした相違点aについての審決の判断に誤りはない。
したがって、取消事由2も理由がない。
(3) 取消事由3
本願発明が良好な冷却効率、偏析の防止、中子の再利用可能性及び取外しの容易性等の各種の作用効果を奏することは前記2に説示したとおりであるところ、原告は、かかる作用効果は当業者の予測を超えたものであるのに審決はこの点を看過したと主張する。
前掲甲第4号証によれば、引用例には、「中空鋼塊の製造において最も重要な問題は、その鋳型の構造であり、特に中子の構造である。この中子を含む鋳型の製作において最も重要な問題は次の4項目である。(イ)中子の製作および据付段取が容易であること。(ロ)中子側の冷却が速く、かつ適当に調節可能であること。(ハ)鋼塊凝固後中子を容易に取り出せること。(二)鋼塊内面に凝固収縮力によつて割れを生ぜず、また鋼塊の表面形状がすぐれた成品を得ることができる中子構造であること。」(2頁左上欄6行ないし17行)、「上記従来技術によつて前記4項目(注、上記(イ)ないし(二)を指す。)の目的を一応達成することができたが、なお中空鋼塊鋳込時の最終凝固位置をできるだけ外側、すなわち鋼塊肉厚の中心に近づけるために不活性ガスにて冷却する場合、冷却を効果的に行わんとすれば中子を被覆する鋼管の肉厚を薄くしなければならず、また肉厚が薄きに過ぎれば中子の強度が不十分で、鋳物砂等の耐火部材を介してかかる溶鋼の静圧に耐えることができず、中子が破壊して溶鋼の流出を招く惧れがあつた。」(同頁左下欄4行ないし13行)、「本発明の目的は、中空鋼塊製造時における鋳型構造において、不活性ガスによつて中子を強制冷却する方法を採る時、鋳型に注入する溶鋼の静圧によつて中子が破壊されることなく、しかも効率的な冷却を行うことのできる中空鋼塊製造用鋳型装置を提供しようとするものである。」(同欄末行ないし同頁右下欄5行)との各記載があることを認めることができる。
以上の各記載によれば、原告が主張する各種の作用効果は、いずれも本優先権主張日前、当業者において、中子の構造との関連においてこれを認識し、その達成に努めていたものである上、本願発明の構成を採用することにより予測可能な範囲のものであって、前掲甲第2号証により本願明細書を精査しても、これをもって当業者に予測し難い程のものであるとまで認めることは困難であるといわざるを得ない。
してみれば、審決に本願発明の奏する顕著な作用効果を看過した違法があるとすることはできない。
したがって、取消事由3も理由がない。
(4) 以上の次第であるから、審決取消事由はいずれも理由がなく、審決には原告主張の違法はないというべきである。
4 よって、本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担及び附加期間の定めについて行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条、158条2項を各適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 関野杜滋子 裁判官 田中信義)
別紙図面1
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別紙図面2
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